先日、『人間はなぜ歯を磨くか』石川純先生の本を読みました。石川先生は、北海道大学名誉教授をしていた方で、この本は1986年に初版が出版されていますがとても高く評価されており興味深い内容です。
この本から皆さんに【もしも歯を失うと】という題で今日はお話しようと思います。
私たちは今日も何不自由なく食べたり、しゃべったり、笑ったりしていますがそれは全部歯がそろっているおかげです。もし、たった一本でも歯を失ったらどうなるでしょうか。
まず第一に咬み合わせの問題が生じます。どの歯もすべて上下向き合ったもの同士が、ペアになり機能しています。したがって、一本の歯を失うということは、その対の歯も巻き添えにして役に立たなくなってしまうことになります。特に奥歯の上下の組み合わせはちょうど臼と杵のようです。対の歯を失ってしまった歯は、杵のない臼と同じで役に立ちようもありません。もし前歯であれば、それは片方の刃が折れたハサミのようなもので肉や野菜はおろか蕎麦さえも噛みきることはできなくなってしまいます。
第二には、歯の移動が起こります。対の歯を失った歯は健気なもので本来の咬む役目を果たそうとして、何かにぶつかるところまで伸び出し、つまり挺出をしはじめます。2~3ミリ伸び出していることはよくありますし、ついには相手の歯があった跡の土手(粘膜)にぶつかるところまで挺出することもあります。こんな状態になると、そのままでは歯を補うための入れ歯などを作ることはできません。また、どの歯も列に並び隣同士が支え合って働いていますが抜歯のために隣の支えを失った歯は、新たにできた空間の方へ傾斜したり、歯と歯の間がすいてきたり、災難は向こう三軒隣にも及びます。このような点からも歯列の連続性が保たれていることはきわめて大切で一本ぐらいと軽く考えることは大きな誤算になります。
第三の問題は、とくに上顎の前歯や正面から見える範囲の歯を失ったときの審美的な障害です。さらに一本だけではなく、何本も失った場合には見た目が悪いだけではなく、発音にも障害が生じます。私たちの歯は、見かけは小さなものですがその一本一本は孤立していますが、けして独立したものではありません。それぞれの歯は、まるでオーケストラのメンバーのように、お互いの調和を保ちながら、おのおの役割を果たしているのです。まだ歯の生えていない乳児を除いてすべての人が自分の口の中に専属のオーケストラをもっているといえるでしょう。しかし、そのなかに一流と言えるオーケストラはどのくらいあるのでしょうか。
メンバーがそろっていなかったり、上手に音を奏でることのできない方は本間歯科にご相談ください。全力でサポートしていきます。